ウイルズ・コーヒーハウス
ウィルズ・コーヒーハウスWill‘s Coffee House
17世紀末から18世紀初頭にかけて、ロンドン市中には少なくとも10軒の「ウィル」という店が存在したが、最も有名なコーヒーハウスはコヴェントガーデンCovent Gardenにあった「ウィルズ」である。ウィリアム・アーウィンWilliam Urwinが王政復古直後の1660年頃に開業した。
「ウィルズ」には文学者や知識人が出入りし、やがてロンドンの文学カフェの中で最も有名な店となった。その中心人物は桂冠詩人ジョン・ドライデンJohn Drydenである。ドライデンは17世紀後半のイギリスを代表する文学者で、その著作は詩・劇・批評と多岐にわたっている。「ウィルズ」の最盛期は1680年頃で、ドライデンを取り囲むようにジョナサン・スウィフト(後にドライデン中心が気に入らずに、店の出入りを控える)アレグザンダー・ホープ、ジョセフ・アディソン、リチャード・スティール、ウィリアム・コングリーヴなどが夜遅くまで文学を論じ合っていたという。
1695年の店主アーウィンの死、さらに1700年のドライデンの死とともに、「ウィルズ」の賑わいは徐々に薄れていった。1712年には近隣に「バトンズ・コーヒーハウス」が開業すると、アディソンらの常連客とともに文学カフェとしての役割も「バトンズ」に移り、「ウィルズ」は急速に寂れた。「ウィルズ」のコーヒーハウスとしての実質的な役割は、1720年頃には事実上終わり、店は1749年に閉店した。 (小村嘉人)
参照文献:
・William H. Ukers “ALL ABOUT COFFEE Second Edition” 1935年
・菊盛英夫 『文学カフェ』 中公新書 1980年
・小林章夫 『コーヒー・ハウス』 駸々堂 1984年
・クラウス・ティーレ=ドールマン 『ヨーロッパのカフェ文化』平田達治・友田和秀訳 大修館書店,2000年